月刊群雛 作品レビュー(前半)
今回のこの記事では、月刊群雛の作品のレビューをしようと思います。
思った以上にレビューを書くのに慣れていないのと、作品を急いで週末に仕上げないといけないので想像以上に時間が取れませんでした。
ちゃんと作品全部レビューするよ! という意思表示も兼ねて、今回は前の記事でレビューした神楽坂らせんさんを除いた前半の四作品をレビューしたいと思います。後半(残った四作品のレビュー)は来週の中頃に完成する予定です。
作品の題名 :名前と(ふりがな):ジャンル
このような形で作品を紹介します。 ※名前は敬称略とさせていただきます。
我思う、故に我あり :竹島八百富(たけしま・やおとみ):ホラー
さて、どうしましょうか。下手なことを言ったらネタバレになるのではないかという不安があります。しかし何もしないわけにはいかないのであくまで慎重に。
手術七日前、という単語がまず冒頭に出てきます。そしてそこから二人の女性が手紙のやり取りを始めるのですが……二人のやり取りが奇妙です。
この二人の性格は文面から見ても対照的で、仲はよさそうには見えません。二人の言い争いは日数を経るごとに少し激しくなっていきます(とはいっても一方が激しくなっているだけですが)。
さて、そんな手紙を経てオチへと行くのですが、このオチには人によってそれぞれ思うところがあるかもしれません。僕が思ったのは、阿刀田高さんの短編。その作品のオチを彷彿とさせるようなものでした。後味の悪いような、考えさせられるような、というものです。
作者さんがインタビューで仰るには、
短編を書く喜びは「えっ? そこで終わるの?」、「そんな終わり?」と、読者をやきもきさせ、そして、「畜生! この作者、もう読まないゾ!」と言いながら、【購入】ボタンをポチっとしてもらうことです。
とのこと。
その喜びが体現されたような作品でした。元々ホラーは江戸川乱歩が大好きなので一気に読めました。
手紙を読む度に沸々と湧き出る違和感や得体の知れない恐怖。そのあたりの描写や雰囲気作りにとても力が入っていました。
サラリーマン・エレジー:婆雨まう(ばう・まう):日常、エンタメ
こういうおじさんを主人公にした作品というと重松清さんを思い浮かべます。ただ、この作品はそれらの作品とは一線を画し、リアルなおっさんが出てくるのです。およそ女性ウケしないであろうリアルなおっさんなのです。
作品の舞台は不動産屋。作者さんも実際にそういった場所に勤めていたそうで、そういった現場のリアル感は、専門用語などを織り交ぜて小説の中に有り余るほど出ています。
主人公は舞台の不動産で働くおっさんである、健太(課長)です。もう一人の主人公? といってもいいのかわかりませんが、吉田(係長)もいます。二人、ないし複数の主人公がいると、対比した(イケメンとキモメンのような極端な)ものが描かれがちですが、このお話では、ベクトルが同系統の場所で枝分かれしたおっさんたち、そう、どちらも容姿は違えど、似たように悲哀に満ちたサラリーマンのおっさんたちが主人公です。そのどちらも、紹介文にデブだの出っ歯だの、マイナスの単語で特徴を言われるおっさんたちなのです。
さて、肝心の中身はというと、いきなり会長の下ネタから入ります。それからもある程度下ネタが出てきますが、この辺りもおっさん社会としてはリアルです。登場人物は会長や社長、部長、二人の女性。この人たちも少々癖が強い人たちです。そういった人物やその不動産会社という世界を、健太よりの第三者視点で語られていきます。
既刊枠なので、本来の小説の何割かしか載せられていませんが、それでもサラリーマンの悲哀さは充分伝わりました。特に僕は吉田が気になりました(※注 好きになったわけではありません)。憎たらしい感じのキャラがいいですね。ねちっこいというかずる賢いというか。現実にいたら嫌だけど、物語にはスパイスとして効いていましたね。
その他の登場人物も、背景など事細かに書かれています。そこに見えるのは裏の顔だったり、だらしない部分だったり、憎たらしい部分だったり。そういう人物描写がしっかりしている作品でした。
激闘! 宇宙駆逐艦 :米田淳一(よねた・じゅんいち):SF
某ブラウザゲームを彷彿とさせる設定です。ただあちらとは違い、こちらは宇宙が舞台となったSFです。
今回の話は元々発売している「プリンセス・プラスティック」の別視点のもののようです。最終回から、しかもSFの作品を読んでレビューを書くのは至難の業ですが、設定などにはあまり言及せず、読んだ感想をそのままお伝えしたいと思います。
まずこの世界には、女性型の高機動戦艦というものがあります。それらは人間と同じサイズほどで、宇宙や空を飛び回ることができるそうです。(話の内容などはさらにインタビューにも載っておりますのでそちらを参照)
どうやらその中で心を持ったシルフ、シファと言う高機動戦艦が物語の核のようです。シファは「プリンセス・プラスティック」でも重要な位置にいます。
序盤から危機が迫った状況が始まります。そして終わりまでずっと戦闘が続きます。(最終回なので当然といえば当然)
艦のハイジャック、その犯人グループとの駆け引き、そして宇宙での戦闘。
途中で入る挿絵も相まって、頭で状況が思い描けますね。まさか電子書籍に挿絵が入るとは思わなかったので、いきなり宇宙空間に浮かぶ船のCGを見たときはびっくりしました。他の作品とはまた違ったこだわりがあり、前作を知らずとも読み進めていけました。SFや戦闘シーンは今までほとんど書いたことがないので、こういった描写ができる作者さんが羨ましい。
kappa :王木亡一朗(おうき・ぼういちろう):青春(オカルト、ミステリも含む)
既刊枠なので、物語が途中で終わってしまうのですが、とにかく続きが気になるお話でした。
中学生である主人公は、小さい頃に川で溺れて、それが後遺症で泳げなく? なる。性格はちょっぴり冷めた感じの子です。その主人公が通う中学校に、いろんなところを転々として方言が少し混ざった不思議な男の子の転校生がやってくる。その子は何かにつけて主人公に難癖をつけてくるのだが……。
さて、この作品では河童が言葉として出てきますが、本当にそんな人ならざる者がいるのか、転校生がなぜこんなに主人公に絡むのかは今のところは謎。そしてその彼が主人公を、「面かせや」とでも言うように呼び出す。そういったところで話は終わります。くぅ、続きが気になる。
オカルトが少し入った青春小説、と読み終わって思いました。オカルトはもちろん河童の部分です。青春小説らしく風景の描写がいい。特に最初の水中の、光や気泡の表現が純粋にいいなと感じました。
他にも心情描写がいい。主人公の一人称で話は進むので他の人の心の直接な描写はありませんが、特に幼なじみの女の子の、言葉や声色などで仄かに表れる心情が想像できました。
(インタビューではもう少し踏み入った話がありますが、作品を読んだ上での感想なのでこのレビューでは割愛します。)
今回のレビューはここまでです。後半へ続く。