試食恐怖症
試食というのは、自由という衣を被った強制的な力を働かせる恐ろしいものだ。そんな風に試食について悪印象を抱いたのは、高校の時の出来事にある。
高校の修学旅行で京都に行き、お土産屋さんの店が並んでいる通りを歩いていた時のことだ。ある店の人から声を掛けられたのである。
「試食どうですか?」
そこで出されたのは、八つ橋の一部を乗せた皿だった。断るに断れず、まあ試食だけならとそれに手を伸ばす。それを食べると、次に言われた。
「店の中でお土産見ていきませんか?」
どうやら修学旅行生だと気づかれたらしい。断るのもなんなので、店の中に入った。すぐに出ればいいやと思ったが最後、その判断が間違ったことにすぐに気づいた。
ずっと店員に付いてこられたのだ。そしてどこから来たのか? 何年生なのか? と質問責めにあった。
まずい。外に出られない。質問の優しい言葉の裏に、プレッシャーを感じた。
「買え」
そんな本音が、じわじわと伝わる。それに耐えきれず、店にあった八つ橋を一箱買ってしまった。
あれから十年以上が経った。その経験もあってか、試食というか、試すということが恐くなった。
店員が直に試食コーナーをやっていく時は一切近づかない。すぐ近くに欲しい商品があってもぐるりと陳列コーナーを回っていく。
服の試着もしなくなった。そのせいで、サイズが合わなかったことも何度あったことか。
今女性と付き合っているのだが、それも少し後悔している。ためしに付き合ってみろと言われ付き合ったのだが、今考えてみれば、これも一種のシモ的な意味でも試食なのではないかと気づいた。
この年で付き合うとなると、結婚は意識せざるをえない。相手は気にしなくていいと言った。だが俺はその優しい言葉の裏に、プレッシャーを感じた。
「結婚しろ」
そんな本音が、じわじわと伝わる。