初瀬明生と小説とKDPと

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扁平足の祖父

 扁平足という病気がある。扁平足とは、土踏まずがない状態の足のことである。それだけ聞けばそれがどうしたという病気だが、形状が悪い影響で神経などを圧迫し、痛みが発生する場合がある。あくまで扁平足とはその形状のことを指す場合がほとんどだが、それが痛みを伴い病気へと昇華する場合がある。

 僕の祖父はそれだった。小さい頃から、いつもそれに苦しんでいたという。

 本当に嫌な人生だったらしい。学校の徒競走などではいつもビリ。他の人の遊びなどにも参加できず、寂しい学生時代を過ごしていたようだ。その分学業を頑張っていたようだが、やはり他の人と同じように山や校庭を駆けたりしたかったようだ。 

 ただ、祖父にはこの病気に感謝していることがあると言う。それは、成人直後の兵役を逃れたということだった。

 扁平足は歩行に障害が出るという考えから、兵役を免除されるケースがあったらしい。祖父はそれに引っ掛かった。

 当時、お国のために死ねという考えが蔓延している中で暮らしていれば、それは唾棄すべき恥であった。実際に後ろ指を指されることもあったと聞いた。しかし祖父は、そんな出来事がありながらも、この病気に感謝していた。

 もう少しそのことについて、祖父と話しておけばよかったなあとしみじみ思った。だが……。

 線香の香りが漂い、お坊さんの経を読む声が、静かな部屋に響き渡る。今日は祖父の三回忌だった。それに僕も参加した。

 僕を含めた家族は、祖父の遺影の前に正座をしていた。後ろから見れば、父と中学生ぐらいの子の足がどちらも土踏まずが無く真っ平らであることに気づくかもしれない。

 残念ながら、扁平足は祖父から受け継いでしまったらしい。徴兵制もなくなった今では、もう恩恵はないだろう。それに祖父ほどではないだろうけど、痛みも伴う。今は生活習慣などに気をつけて、絶賛改善中だ。

 だけど僕は、これがなかったら自分が産まれてこなかったかもしれないと考えて、憎みに憎みきれなくなってしまう。

 もし祖父が健常であり、戦争に赴いていたらどうなったか。それは僕にもわからない。

 おかしな話かもしれないけど、平穏な日常が過ごせているのは、この扁平足も一役買っていると僕は思っている。こんなことを言ったら変なやつと言われそう。

 ただこれだけは言える。祖父が生きていたからこそ、扁平足によって兵役を逃れたからこそ、僕はここにいるんだと。