初瀬明生と小説とKDPと

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月刊群雛1月号レビュー

遅ればせながら、月刊群雛1月号に載ってある作品のレビューをしました。

対象となるのは「電子書籍で1000万円稼げちゃいました」以外の作品です。

こちらの作品はレビューされまくってるので、わざわざ自分が書くまでもないということで今回は割愛。他の人のレビューがいいものばかりですので、そちらを参照して下さい。アマチュアの方にはぜひ見ていただきたい作品。感想は自分の中でしまっておきます。

気を取り直してさっそくレビューの方に参ります。

著者名は敬称略とさせていただきます。

・計算する知性ver1.5 最終回  夕凪なくも(ゆうなぎ・なくも)

 前作を読んでいないので、これだけ読んでレビューしていいものかと思いましたが、印象、描写などを中心に。

 結構物騒な単語が出てくる。「自殺」や「殺した」など、そんな言葉が出てくる。そういったサスペンス的なものかな? と思い読み進めていくと霊などが出てくる。そして閉鎖病棟が出てくる。

 このお話をどのようにジャンル分けしたらいいのか正確には言えません。ですが、最後の終わりはサスペンスに近いものがありました。個人的にはホラー、サスペンス、SFが混ざったような印象を受けました。

 チャプター5からは怒涛の展開ですね。そしてあの最後。組織がらみではよく見る反逆者の図。

 作品は主人公の一人称で進むのですが、前述した閉鎖病棟の光景にそこまで臆している様子もないし、誰かを殺したとも言っている。この主人公の普通ならざる立場というものが、そこで垣間見れます。最後は会社に戻っていくのですが……。

 このバージョンの締めくくりとしてこのラストは、続編、またはアナザーストーリーにつながるいい終わり方でした。

・芝浜 ~ヒキチートなオレと最強幼馴染みの下克上がまた夢になるといけない~   小林不詳(こばやし・ふしょう)

 「芝浜」というお話を知らない方はググって見て下さい。すぐに冒頭に出るほど有名な話です。

 この作品はその現代版アレンジ。さらにそこにSFが加わったようなお話です。

 浮世離れした主人公と、それを支えるヒロイン? のお話。主人公はまさしく現代版芝浜の主人公。ろくでもない主人公です。刹那的で、中二病? なそんな人間。その主人公が学校に行く行かないというやり取りも、まさに現代版だなと感じました。

 とにかく作品の中にあるギミックや工夫がすごい。この作品は元作品の夢を、仮想世界(SAOのような)に置き換えていますが、その始まりと終わりの一文が印象的。さらにはテストのくだりの部分もいい。いろんなギミックで、読者を楽しませてくれます。

 芝浜は夫婦の設定ですが、このような甘酸っぱい終わり方もまたおつなものです。

・詩人とアヴナルレ   痛風亭ゑびす(つうふうてい・えびす)

 詩人を目指す主人公と、不思議な少女の物語。

 詩人を目指すだけあって、中原中也ゲーテなどの詩人の名前が出てくる。地の文(主人公の一人称)も、どこか大人びた印象です。

 少女とのやり取りがなんかずれてる。いや、大体は噛み合ってはいるんだけどどこかずれてる。明確におかしいと感じたのは途中の星の話。そして確信は最後で固まる。少女は何者なのか、それが最後辺りからとても気になる。途中にある見出しで、悪い予感も加わってくる。

 一区切りの後の描写では必ず太陽の光が出てきます。それが主人公の好み、追い求めている詩に沿っていて作品全体が明るい。そういった風景の表現に心惹かれます。特に神社の説明のあたりは、遊んでいた子供時代を思い出すかのよう。

・デリヘルDJ五所川原の冒険   ハル吉(はるきち)

 タイトルにDJと付くだけあって、それ中心で物語は進んでいきます。DJの説明、そして専門用語の会話。

 こういう自分の知らない世界に身を置く主人公の物語はいいですね。その趣味のことについてはほとんど知らないけど、その世界に引き込まれていく。

 物語は、進むごとにきな臭くなっていきます。途中のユニ夫から始まり、そして最後のスカウトのところまでが異様にきな臭い。

 そう感じるのは人物描写が上手だからだと思います。ユニ夫のうざったらしさったらないし、スカウトのうさんくささと言ったらない。実際スカウトの場面に出くわしたら、僕は即座に逃げるでしょう。

 ただ、この主人公は引っ越しのバイトをしながら夢を追いかけている。僕とは全く心情が違うのだ。場面が違えば、僕もこういう風になるかもしれない。

 

 最後にカスラックについて触れておきましょう。これは作中では、皮肉めいた言い回しでもなく、本当にある会社として使われています。実際にあるものの名前を変えて作品に出すことはありますが、あまりに直球で面白かったです。

・日本  竹島八百富(たけしま・やおとみ)

 冒頭から無常感が漂う作品。(特に冒頭最後のやり取りを見ればもうノックアウト)

 そこからこの世界のシステム的な説明があり、そしてその中で主人公は……という流れで物語は進んでいきます。

 もうね。読み終わった後の絶望感が半端ないのですよ。作者さんのインタビューでも言っていましたが、嫌な気分になることは必然でしょう。

 もしかしたら、この作品を悪く言ってしまっているように聞こえたかもしれないので言っておきましょう。僕はこういった作品が好きです。もし僕がこういった趣向を嫌っているなら、乙一さんや最初期の道尾秀介さんの作品を何冊も好んで読みません。

 やはり最初の冒頭が好き。長閑な美しい風景の場所から、あのやり取り。そこで心は持って行かれました。この話の入り方は、そのままこの作品に漂う雰囲気を表していると思います。キャッチコピーや、作品に出てくる日本のマニフェスト的なスローガンとのギャップを感じて、それはさらに強くなります。

・天才と狂人 対話篇   君塚正太(きみづか・まさた)

 文学を哲学という場所からアプローチした作品。

 概要こそ掴めましたが、全てわかっているとは言えないです。哲学者の中島義道さんは、たかが一冊ほどで自分の作品をわかった気でいるやつが嫌いと言っているので、変に格好つけるよりはこれでいいはず……。

 専門的な言葉は数多くあれど、内容や主要な部分、言いたいことはすっと入ってくる。思想がある作品が深化すること。売れる作品を目指し、功利主義になっていくとそれらが大きく削がれること。現代文学には、そういった作品がないこと。

 特にこの後半の話は耳が痛いです。商業作家でもなんでもありませんが、小手先や言い回しばかり気にしている節が自分にはあるからです。より注目を、より売れる作品をと考えれば、そうなることは必然でしょう。

 作者の方が、現代作家が今まで出した作品に後世に残るものはないとするのも頷けました。(村上春樹の作品に対する印象は、まさしく僕が言葉にできないものでした)

 現代作家、はてはインディーズの作家にも喝を入れるような作品です。

・夢二夜   米田淳一(よねた・じゅんいち)

 ヒッグス粒子の研究というものすごく現実からかけ離れた設定から、よもやこのような現実的でいて温かな結末になるとは思いもしませんでした。いい話だった!

 専門的な言葉以外は、ごく普通にありそうな会話が展開されています。初夢の話とか、宝くじの話とか。そこに粒子に例えた比喩がある。それを狙ってこの設定にしたのでしょうか?

 冒頭の記述から、いきなり予想をはるかに越えた舞台設定。そこから繰り広げられる研究員のやり取り。途中で挟む夢の話でバットエンドかなと思ったのは内緒です。

 そしてその予想を覆した結末。同じ夢でも、見る夢と叶える夢は違いますからね。

 しかし初夢をテーマとしたSFが今まであっただろうか。少なくとも僕は知りません。年始めにふさわしい、いい作品でした! 最後にはほっこりさせられました。(バッドエンドが頭にあったのも手伝って)

・ご飯の時間   晴海まどか(はるみ・まどか)

 サスペンス・サイコホラーもの。あまり晴海さんの作品では見かけない作風です。

 具体的な事件はまだ起きてはいないのですが、この主人公二人が大分臭う。ただ、ここに載ってあるお話だけを見れば、悪意のようなものは感じられなかった。なんというか、無邪気な邪気と言えばいいのか、そういった這い寄るような恐怖がところどころに散りばめられています。

 プロローグのお話がまさにそれで、登場人物の不気味さからそれが思い起こされるのは必然。わかりやすく言えばサイコパス? これが的を射た表現なのかはわかりません。

 作中に登場する、ある色の描写が怖い。こういった表現の方法っていいですよね。直接的なものではなく、想像や気づきを促すことでさらに恐怖は掻き立てられる。全体の描写も、日常のはずなんだけど、どこか不穏な空気が流れているような感覚に陥ります。

・Illumination(詩集)  青海玻洞 瑠鯉(せいかいはどう・るり)

 リズムがいい。前にも言ったのですが、僕は詩に関して言えば素人もいいところです。

 しかしその目から見ても、この作品はリズムがあり、読んでいて心地いい。ところどころに季節感があり、作品一つ一つは短いけれど、そこに情念や風景の表現が詰まっています。

 詩特有の口語体も心地いいです。米田さんも言っておりましたが、こういうのは考えてはダメなんですね。感性で読まないと。詩というものはこういうものだと教えてくれる作品。

 特に気に入っている詩は「一眼レフVS」

 なぜ一番好きなのかを明確に言える理由はありません。なんか好きだったからです。これぞ感性。

・迷い犬、ポチの涙  婆雨まう(ばう・まう)

 

 現代のペット問題を如実に表した作品。犬のシーンの描写はかなり来るものがあります。

 飼い主と犬のシーンが交互に描かれているのですが、飼い主の身勝手さと犬の哀愁がそれぞれ引き立つ。

 祥子という女には腹が立ちますね。しかしそれがコントラストとなり、犬の健気さがよりいっそう強く表現されています。

 本当に健気なんですよ……。悲しくなるくらい。家に戻るときの犬の心情がなんともいえない。犬視点から見れば、こんなことを考えているのかなと切なくなります。

 祥子に腹が立つと言いましたが、現実の飼い主にはもっとひどいやつがいます。祥子がまだマシと言っていいのかは悩みますが、とにかく保健所が舞台のドキュメンタリーなどでたまに見る飼い主はひっぱたきたくなります。

 最後は本当に切ない。犬の視点も相まって、この問題がどうなっていくのだろうかと深く考えられます。犬の視点の描写は、特に必見。

・不揃いのカーテンレール  王木亡一朗(おうき・ぼういちろう)

 この主人公、やばい。いい大人がカーテンに包まっておばQなんて……。

 いや、それを変とは言うまい。その気持ちはすごくわかる。たまに奇行をしたい衝動は、特に社会人にはあるのだ。ゲーム内で人の家のタンスや袋を調べて中身を勝手に売り飛ばしたり、意味はないのにツボを壊しまくったりするのと理由は同じだと思う。

 3のセクションまでは日常感がたっぷりです。4からは、日常から少し逸れたある出来事の話。そして最後は、続きが気になる終わり方。

 作品の全体の印象としては、本当に共感ができるくらいの等身大の文体です。全体のお話もそうですが、1と2と3のセクションは、日常から切り取った小話のようで面白い。2は特に、オチもしっかりしていてちょっとした短編を見ているみたいでした。3は言われたことがあって、少し腹が立ったのを思い出しました。

 社会人の理不尽さやストレスを、暗い雰囲気ではなく、少しコメディタッチで書かれていたのがミソ。

・表紙   三島花鶏(みしま・あとり)

 羊の容姿をした、妖艶な女性のデザイン。背景には富士山、門松と実に正月らしい作風。

 後ろの色彩豊かな鳥は群れる雛を表しているようです。

 そして山の麓、左部分にご注目いただきたい。

 みなさんお気づきだろうか……。少し山が欠けているのです。

 これは富士山が鳥でできており、そこから鳥が羽ばたいているということだそうです。(作者インタビュー推奨)

 そういった隠された設定も含め、年始めにふさわしいデザインです。めでたいね!

 TANABEさん、デザインお疲れ様でした。竹元さん、晴海さん、そして鷹野さん、編集と校正お疲れ様でした。

 作品だけではなく、この方々のご助力もあり雑誌は完成するのです……。

 しかし鷹野さんが言う次のステップとはなんなのだろう。それがとっても気になります。

 話が逸れました。自分が参加した雑誌のレビューはこれからも続けていきたいと思います。(とても毎月レビューというのはできませんので……)

 少しでも交流の活発になれば幸いです。

 以上でレビューを終了したいと思います。長文失礼しました。