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KDP本をレビューしてみた「妄想する子供たち」

広橋悠さんが書いた「妄想する子供たち」読みました。

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ツイートにも短い感想を書きましたが、今回はそれも含めた長い感想になると思います。

タイトルに騙されてはいけない! エロい! 少しグロめ!

・概要

山の中で彷徨っていた主人公三上健一郎は、滝壺に浮かんでいた少女を見つける。その少女を背負い、あてもなく歩き続ける。しばらくして彼女が目を覚まし、忘子(ぼうこ)と名乗る。導かれるように案内されて、山中にある屋敷へと入っていく。

屋敷には、統子、忘子、優子、幼子、レヒツ、リンクスという人が住んでいる。統子は年老いた母親で、他は全員子供たち。カナ文字は男性、それ以外の「子」と名前に付くのは女性。大雨で山を下りるができない三上は、そこに泊めてもらうこととなった。

浮き世離れした場所に住む人間たちは、やはり普通ではない。屋敷で生活していると、さまざまな不思議な現象が発生する。本当に、夢か現か、はたまた個人の妄想かわからなくなるぐらいに。

物語の序盤中、統子の話で疑問に持つことがある(既読の方はわかると思うが、人数のこと)。それは後半徐々に明らかになっていく。

そしてその謎に包まれた人物が三上の前に現れてから、物語が動き出す。

概要はこのぐらい。あまり先まで話すのは忍びない。ここからは感想。

とりあえず舞台設定はかなりツボに入りましたと言っておきたいです。推理小説でも館ものは好きですが、自分はこういう浮き世離れした場所とそこに住む人々というのが、すごい好きなんだなと改めて実感された。

この作品の感想を書いた方で、夢野久作っぽいとその名前を挙げる人をちらちら見かけましたが、おそらくは「ドグラ・マグラ」のことを指しているのだと思います。瓶詰め地獄とかではないはず。心当たりのある人は、そういう認識で間違いないと思います。

さて、この作品を彩っているのは、その流麗な文章。そして随所にあるエロティシズム!

忘子と会う時から、若干官能めいた雰囲気が漂い、それが優子と会ってから徐々に拍車が掛かってくる。直接的なものはなくても、なんでこうもエロいのだろうか。浮き世離れした場所にいる人の性的嗜好は、まさに浮き世離れしていた。

もちろん売りはエロだけではない。性的描写はもちろん、屋敷内の描写、食器の描写、人物描写は素晴らしいものがある。そういった描写にとても力を入れている。作品中に出てくる比喩もよく、全体を通してみれば本当に正当な純文学と言えます。

(ここから独自解釈があります。ご了承ください)

タイトルと内容のギャップがものすごい強いと感じました。といっても、それは狙ってやったことと思われます。

Twitterでも言いましたが、このタイトルに引っ張られているのかわかりませんが、随所に登場人物の子供っぽいところが見られました。優子の欲に忠実なところ、幼子の堕ちた経緯、レヒツとリンクスの逸脱した従順さ。そして何よりも謎の人物の立ち居振る舞い、考え方。

レヒツとリンクス以外は、子供っぽいというより奔放と表現したほうがいいかもしれない。特に謎の人物の考えは常人には理解ができない。妄想と言ってもいいぐらい。

屋敷で起こる出来事は、それこそ妄想みたいな不思議な現象が起こる。場面場面のどこが妄想か現実かと区切るのか、正直全部読んでも自信はありません。唯一見分けられるとしたら、現実にはなかった物がある時が妄想だと僕は考えていました。

例を挙げるなら石膏像、そして地下の扉がむき出しになっている時とかでしょうか。あとは明らかに別の場所になった時。

これは正解ではありません。そんなルールはないし、最初から全部が妄想だったとか、思ってたのとは真逆が正解だったなど、考え出したらきりはありません。胡蝶の夢的な話ですが、明確な答えが示されていない以上正解はないです。

ただ、この物語の真相に関しては明確な答えはある。それは後半、「十五」からの話を読めば自ずとわかると思われます。

それを基軸として見れば、この物語が妄想、過去、現在という三つの事象が混じるものだということがわかる。

一人の大きな妄想は、他の人間の妄想をも引っ張って混濁する。過去がそこかしこで投影し、あたかも現実のように繰り広げられる。

しかし、前述したように、それらを明確に区切ることは自信がないです。銀河鉄道の夜のように、全てが夢だったと言われても不思議ではない。登場人物ももしかしたら・・・。

これ以上言ってしまうとネタばれになりかねません。

とりあえず読もう! そして自分なりの答えを見つけてほしいです。答えに自信はないので、いろんな人の意見を聞きたい。

文章は流麗です。読みやすいです。ただ、ここまでを見て貰ったらわかると思いますが、人の好みははっきりと分かれると思います。不安に思う方は、無料サンプルをダウンロードしてもいいかもしれません。

以上でレビューは終了です。最後まで見ていただきありがとうございました。