初瀬明生と小説とKDPと

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害になった人

私の名前はつちよしはじめ。今日は気分を変えるため、帽子屋に行って帽子を買うことにした。

「お客様、こちらのベレー帽はいかがでしょうか?」

店員に勧められたベレー帽。なるほど実に素晴らしい。被って鏡を見てみると、やはり四十の私に藍色はよく合う。このフォルムも実に素晴らしい。

「よし、これに決めましょう。いくらですか?」

「二千円です」

私は即断でそれを買った。それからというもの私は、休日に出かける時は、必ずそれを被るようになった。

新しい装いだと心も入れ替わる。気分も若返ったような気がした。

しかし一つ気になることがあった。

行く先々でトラブルに巻き込まれることがなぜか多くなった。新幹線が遅延して何時間も車内で缶詰になったり、旅行先で火山が噴火し目的地に行けなくなったり、爆発物が見つかったという騒ぎがあってそのまま計画が頓挫したりもした。特に最後は、なぜか私が犯人に疑われて警察に取り調べられて苦労してしまった。

「あなたの名前は?」

「つちよしはじめです。吉という字の『士』と言う字を『土』に変えてつちよし。そして漢数字の『一』ではじめです」

こんな具合だ。まあすぐに解放されたが、予定が潰れたこともあり落ち込みは半端なかった。

なんでこんなトラブルが続いているのか、それを考えてみた。なぜこれほど害を被っているのかを。

そんな疑問を持って、何気なくテレビのクイズ番組を見ていた。すると……。

あれ? もしかして。あることを思いついた。

私の名前はつちよしはじめ。それぞれを分解すると『土』『口』『一』となる。それにベレー帽っぽい形である『ウ』を被せてみる。すると、

「害」

いや……まさかね。いや、気分というのもあるし。

それからというもの、ベレー帽は被らなくなった。それから順風満帆に旅行ができたのは、きっと偶然なんだと思う。