初瀬明生と小説とKDPと

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「十人十色」

 十人十色という言葉があるけど、本当にその通りだと思う。

 道行く人には、赤い人もいたり、緑の人もいたりする。たまに白い人もいる。

 一応断っておくけど、これはオーラの話じゃない。僕は本当に人が、その色に見えるのだ。他の人間が全員、単色に染まった人間にしか見えないのである。顔や服などはもちろん見えるけど、まるでその色のライトで照らされているように、全身が単色の染まっているのだ。そして長い人生の経験の中で、それが人の特性を表していることに気づいた。

 僕は営業の仕事をしているのだけど、その経験もあって、ある程度正確であると思う。

 赤い人は攻撃的で、人によっては犯罪に走る傾向がある。緑の人は穏やかだ。そして白の人は、あまり人とは話さない無関心型が多い。そしてごくまれに黒い人がいるのだけど、これは死を表している。大きな病気、もしくは自殺を考えている場合だ。

 大抵の人は、極端な自分の性格を押し殺して社会に溶け込んでいる。必死に社会人としての色を必死に前面に押し出している。しかし、僕から見ればそれは無駄な努力となる。まあ別にいいんだけどね。

 ある日、僕が住んでいる街を歩いていると、遠くの方から黒い集団がやってきた。そんな光景を見たことがないから、僕は思わず足を止めてしまった。

 もちろん他の赤や緑や黄の人は、そんな色は見えないためスルーをしている。その黒の形をした人は、一様にしてうつむいている。

 黒っていうのは、大病を患っている、もしくは死にたくなるほど気が滅入っている人だ。黒の場合は、人に関わらず誰しもがなり得る色だ。

 さすがにそんな集団を放っておく訳にもいかないので、気づかれないように跡をつけてみた。集団の数は十人ほど。みんな一様に肩を落とし、うつむきながら歩いている。

 やがて人通りのない路地裏に入る。建物の陰からそれを見ていると、先頭の男が急に地面に膝をつき、大声をあげて泣き出した。

「ああー! みほりんが男と付き合ってるなんて信じらんねえよ!」

 みほりん? 誰だそれ。

 そんな疑問をよそに大の大人たちは、それに共鳴するように泣き崩れる。なんというかすごい光景だった。大人があんなに人目をはばからず泣いているなんて初めて見た。

 家に帰って「みほりん」なる人物を調べてみた。てっきりアイドルの類いかと思ったけど、インターネットのトップに上がったのは声優さんだった。

 同じあだ名の人がヒットしたのかと思ったけど、熱愛発覚という見出しがあったから、おそらくこの人で間違いない。

 声優が男と付き合って何が悪いんだろうか。声が好きだなとはなるけど、中の人がどうのこうのというのは今まで知ろうともしてなかった。顔の見えない職業だから、そっちに行く切っ掛けもない。

 だがおそらく彼らは、声や容姿も含めて彼女のファンであり、その人が男と付き合っていたからあんなに嘆いていたのだろう。

 僕にはあまりわからない世界だ。まあだからと言って否定する気はない。十人十色。人の好みや趣味にいちいち突っつくのも野暮だろう。あまり過度なものでなければ。

 次の日、営業先に赴いたらなんと、あの泣き崩れた先頭の男が相手だった。昨日の情けない姿はどこへやら、今は立派なスーツを着てニコニコと笑っている。社会人って大変だなあって改めて思った。

 そんな彼の色は赤色だった。昔からその色なのか、つい最近変わったのかはわからない。