初瀬明生と小説とKDPと

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月刊群雛2月号レビュー

いやあ都合があって遅れました。申し訳ない。

というわけで月刊群雛2月号のレビューを始めます。

(敬称略とさせていただきます)

コユキキミ『ハハとムスメ』

日常の風景を切り取った母と娘の微笑ましいやり取りを書いた作品。と、思いきや。

下手なことをいうとネタバレになってしまうけど、7ページ目がね、うん。

ネタバレにならない程度に総評を書くと、日常と非日常がうまく組み合わさっている。

後半につれ非日常は強くなっていきます。すごく母子ともに殺伐としているけれども、そこは非常にコメディなタッチで書かれている。しかし現実にこんなことが起きていたらとても笑えないでしょう。そして最後あたりの説明が異様な雰囲気を醸し出している。

・ハル吉『デリヘルDJ五所川原の冒険』

幼稚園にDJという奇抜な設定の今回のお話。

幼稚園なので子どもとの触れ合いが書かれていますが、特に見どころはそこの園長先生の出会いでしょうか。

過去に熱中していたものを同年代と共有するのは楽しいものです。今回はそれがレコードで、それを中心にした二人の話が微笑ましい。レコードをセットしているところ、音楽を流しているところ、園長先生がそれに合わせて歌うところは情景が浮かぶよう。

最後まで読んでみると、一つの謎が出てくる。園長先生はいったい何者なんだ……というものが。

・花笠香菜『新約幻想ラボラトリー』

未来の研究施設の話。

研究機関に身をおいたというだけあって、研究施設の設備や内部の関係などが如実に出ていました。特に後者の方が強い。もちろん強調している部分はあるかもしれませんが、ひたすらに事務的な態度の窓口担当、変人が多いラボが印象的でした。

エリートがその組織の僻地に飛ばされるのは、相棒よろしく他の刑事ものでもよく見るもの。しかし研究所というのは自分の中ではあまりない。どんな理由があって飛ばされたのか、というところにも着目していただきたい。そして謎の若い所長の失踪。謎が深まる。

完全な余談ですが、塔の最上階の研究施設で変人の博士が死んだという本をなぜか冒頭を読んで思い出した。確か推理小説。タイトルは忘れました。

・神楽坂らせん『異世界構築質問リスト5』

これについては何も言うまい。僕の感想はここにがっつりと書いてある。http://meiousei9past.blog.fc2.com/blog-entry-65.html

物語をつくる指南書のようなものですから感想は変わりません。ただ言いたいことは、翻訳お疲れ様でした。原本を見ると、長いです。

そしてなんと全編合わせたものが無料でダウンロードができます。さっそくダウンロードしました。

これを無料で販売とは実に懐が深い。金払ってでも欲しかったものですから、本当に嬉しいです。

http://bccks.jp/bcck/129492/info

・君塚正太『とある精神病者の手記』

精神病者の手記というと芥川龍之介の河童を思い出しますが、それとはベクトルが違います。

本当に、そうした異常者が書いたような地の文。おそろしく重い。文献を引用して自身の心情などを表しているけれど、思考が常人離れしてほとんどが共感できないのかもしれない。

しかしこんな話を聞いたことがあります。精神異常者が見ている世界が本来の正しい世界なんだと。

もちろんそれを信じることはできませんが、この精神病者が剥き出しにした心に少しでも琴線に触れるものがあってもおかしくはない。

・婆雨まう『ワナビ売上げでコロッケを買う』

KDP作家を始めた方は特に必読。

状況は説明するな、は本当に自分の心にもぐさりとくるものがありました。KDP作家とは言いましたが、物書きの方も読んでみていいかもしれません。一つのテーマごとに熱が入っているように思えます。ハウツー本を意識して、相手に読ませることがよく考えられた文だと思う。

本文にはタイトルも重視せよと書いていますが、この本はそれが大成功しているといっても過言ではない。

タイトルのセンスがすごくいい。

・くみ『井の頭cherry blossom~restart~The Blue Marble』

井の頭と桜という字がタイトルが入っていますがSFです。物語は宇宙開発が進む世界で、宇宙飛行士の訓練を積む二人の青年のお話。

この作品はBLのジャンルですが、この物語の中では男二人の友情ものにとどまっている。〈僕の目からはです)

男なのでBLというものを読む機会はないけれども、大体の作品は作者さんが言うように、恋愛のもつれやアダルトな内容になると思います。それが先に言ったように、あくまで友情の範疇にとどまっている。一方からは、見方によれば友情以上の感情を感じますが。

訓練だったり、七夕の話だったり、夕日だったりと、二人を彩る情景や場面が本文中には散りばめられている。

三ページ目でこの二人は社会人だということがわかる。

最初にそれが提示されているからわかりますが、もしそこがなければ、少年二人のやり取りに感じてしまう。

なんというか、二人からは少年のような純粋さや優しさが感じられますね。最初の会社通勤しながらの説明がなければずっと勘違いしていたくらいです。

・晴羽照尊『頽廃のキルケゴール

見出しに惹かれる作品。冒頭と終わりは「今」のことで、それを主人公の「過去」の思い出の語りを挟んで物語は進んでいきます。過去の思い出とは、この女の子がひきこもっていた頃のお話。

タイトルに使われているキルケゴールと言えば「死に至る病」が有名です。この春羽さんの作品では、主人公の絶望や、この年代特有の生きにくさや不器用さというものが切実に伝わってくる。内容を表したタイトルだと思いました。

ちなみに頽廃(たいはい)は、退廃と同じ意味です。壊れ荒れること、風俗・気風がくずれ不健全になることです。

作品を読んだ感想としては主人公の女の子が不器用すぎる! もっと素直になってよと思いましたが、この年齢の子はとてもそんな素直にはなれないのです。それを説教くさい(だが、それがいい)男友達が救うのですが、男のキャラは、某作家に通ずるものがある。と思いきや、インタビューでそれは明言されていました。(詳しくはインタビューにて)

・波野發作『ヴェニスンの商店』

日常的な風景に異端なものを混ぜると、それは強烈に印象に残る。それがこの本文にあります。しかしものすごくさらっと入りましたね。

現代を舞台にしたSFの物語。そこに住む宇宙人の話でSFではあるけど、宇宙だったり発展した機械類などは表にあまり出てこない。「第9地区」あたりを想像すればわかりやすいかも。(彼らは難民ではありませんが)

日常を舞台とした非日常といえば最初にあげた「ハハとムスメ」がありますが、それとはまた違うもの。こちらは堂々と日常の中の異端さを読者に示しています。

最後のオチが好きです。これだけは言いたい。

竹島八百富『八』

竹島さんの作品は何度か拝見しましたが、この書き出しもどこか阿刀田高を彷彿とさせるような印象を受けました。※勝手な個人の感想です。

そんな作品は、女性の一人称で進んでいきます。舞台は音大。そこの生徒と鬼教官の話です。

こんな先生がいたらきついですね……。幽霊的なものではない、怖さというものがありますね。ただホラーというよりは後味の悪いお話というほうが適切でしょうか。鬼教官の怒号と、主人公である音大の生徒の自分の思い出を振り返るような語り口調がコントラストとなっています。

タイトルにある通りオチは八が関係しますが、僕が思っている解釈であっているのかわかりません。オチまで読んだ方はぜひ作者さんのインタビューを読んでみてください。特に最後のところを。ちなみに僕はまだわかりません。

・雅日野琥珀『表紙』

別冊も本号も、どちらも雛が描かれています。こちらはその雛に合わせた小さな女の子が画面を見ています。画面の明かりの濃淡とか、スマホの画面の文字とかが細かく描写されて素敵な絵です。

 今回は別冊と合わせての販売でしたので、四人の方々の労力は単純計算で倍。……これには頭があがりません。

 くつきちよこさん、宮比のんさん(別冊も担当)、表紙のデザインお疲れ様でした。くつきちよこさんは初めて参加したそうです。

 竹元さん、晴海さん、鷹野さん。編集と校正本当にお疲れ様でした。

 今回は既刊本なので校正はありませんでしたが、次回参加する時にはお願いします。

 初参加の時より二回目の方が実感として直された箇所が多い気がしましたので、その悪しき法則が少しでも改善されればなと思います。

今回はこれにて終了します。長々と失礼しました。m(_ _)m

※確認は何度もしましたが、間違いなどありましたらご一報ください。連絡を見つけ次第、亜音速で直します。