初瀬明生と小説とKDPと

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月刊群雛 作品レビュー(後半)

遅くなりました。月刊群雛の後半のレビューです。

 作品の題名  名前と(ふりがな):ジャンル(間違っていたら教えて下さい)

このような形で作品を紹介します。※名前は敬称略とさせていただきます。

 走る天使  塩川剛史(しおかわ・つよし):エッセイ

競馬の知識は昔ダービースタリオンというゲームを兄がやっていて、それをみたぐらいの知識しかありません。

「ハヒハハヒマミマミ」という意味のわからない名前の馬がG1で四馬身くらい離して優勝していたという強烈な記憶が残っています。

差しやダートといった用語を知っていればなおよしという程度で、競馬の知識がなくとも充分に楽しめる作品だと思います。

主人公の一人称の視点で物語は進んでいきます。物語はズバリ、競馬場に行った青年の日常を描いたものです。ものすごく簡潔に言いました。これではただ馬券を買って、レースを見て帰るになってしまいます。しかしこの中に、競馬場の風景や、その中の人々、そして一人称の文体でいきいきと表現された主人公の心情。それらが折り重なり、この青年の物語は色づいていくのです。

競馬場に入って馬券を買い、平日のデイゲームに参加している人の心を総括して「俺は悪いヤツだな」と説明しているところはツボでした。あっ、一応付け加えておくと、主人公は真っ当な社会人です。

説明はあえてぼかしますが、主人公が必死になってカメラを馬ではなく、ある対象に向けようと必死になっていたのもいいシーンです。レースだけじゃなく、こういったエピソードを盛り込むのもいい。

主人公の視点からのレースの状況、そのときの心情、競馬のよさを語り、いかに主人公が楽しんでいるか。競馬場の入場ゲートをくぐって、メインレースが終わって帰るまでの一連のその流れが、きっちりと一万字前後の制約の中に描かれています。

 識字率と婚姻のボトルネック  :笠井康平(かさい・こうへい):フィクション(現代)

登場人物は、ある夫婦と、その第一子である兄夫婦と子供、仕事一筋の次女、そして次女の友人である美奈子。兄夫婦と次女は自分の親の家に同居していて、そこに美奈子が遊びにくるという場面から物語は始まります。第三者視点で話が進みますが、この登場人物の様々な心情を、それぞれの目を借りて説明するように話は進む。

あらすじや前提の知識としてはこのぐらいにして、あとは感想。

地の文の熱の入りようがすごい。そこは登場人物の一人に寄り添った視点なので、わざわざここが良いよと僕が言うのもおこがましい。

前述したようにそこには、様々な心情があります。その中で僕がピックアップするのは次女。ちょっとこの人の心情は他の人物と一線を画するものだと感じました。なんと表現したら言いのか……あまり表立って言えないようなちょっとした悪い心と言えばいいのでしょうか。人の体裁の中身だとか、一見仲が良さそうな平凡な家庭を斜に構えたような見方というか。

大概の家族は自分の家でも外見を取り繕って生活していますが、それぞれに思うところがあり、それぞれが心の中で自分の身内に悪態を付くことがあるでしょう。家族という切っても切れない繋がりが、そういう特異な心の機微を生むのだと思います。

それが熱の篭った地の文に描かれていました。

この心情は次女に限らず、大小あれど他の登場人物にもありました。それに共感できるかどうかは人それぞれだと思います。ぜひ、読んで確かめてみてください。

 Moulin Rouge  :青海玻洞瑠鯉(せいかいはどう・るり):詩集

詩集は全てで4つの作品がありますが、それに全て触れると長くなるので総評を書きます。

始めに言いますが、僕は詩集に関して全くの素人です。今までほとんど触れたことのない世界です。

そんな自分がレビューしていいものかと思いましたが、することにしました。とは言っても素人の意見なのでそこはご了承ください。

ラーメン屋にラーメン通が行けば、出汁に何を使っているか、この具が味を引き出している、など専門的なことを語れるでしょう。しかし素人の僕は、値段、味、見た目のせいぜい三つぐらいしか見れません。もっと言えば、美味いか普通か不味いか。それぐらいしか感想はいえません。

さて、今回のこの詩集。出されて僕はきちんと読みました。黙々と読みました。自分なりに咀嚼し、どういうものかと確かめました。そしてそれを飲み込み、喉を通り過ぎて脳内に浮かんだのはただ一言。

エロかった

いやあ詩を読んだのは中学あたりで宮沢賢治のものを見た以来でしょうか。読み始めは身構えていましたが、スラスラと読めました。短く完結しているというのもありますが、その小説よりもずっと短い文章で世界を表れているのです。そこには色があり、身体の艶めかしい表現があり、様々な言葉遊びなどがあります。エロいと感じたのは、そういった体の部位の表現が多かったからだと思います。

言葉遊びは、表現を繰り返すことや、詩集でも同じように言うのかはわかりませんが、結句反復(文末の語句を次の文末でもくり返す)など、いろんなものがありました。

特に気になったのは、いをゐ、っをつ、など文字を変えている部分。小説ではあまり見ない、形で言葉を遊んでいるというものです。違いを持たせることで含みをもたせている……僕の浅はかな思考ではそのくらいしか想像できません。

作者さんにぜひこの意図を聞いてみたいです。

 コンテンツとビジネスと――アジアの片隅で  :志村一隆(しむら・かずたか):ビジネス

題材はドラマ映像の海賊版のことです。そういった業界に属する人ではなくても、多くの人々は耳にしたことはあるだろうこの問題。ただ、その詳しい内情までは知らないという人がほとんどだと思います。

僕の場合、海賊版と聞いて思い浮かべるのは中国でしょうか。

ただ、海賊版の普及は思った以上に進んでいるようで、どこかの国に拠点を置く会社が、他国に向けて日本のドラマを配信するサービスもあるそうです。インターネットがあれば、映像が国境を越えるのはたやすい。そのため、大元を叩かない限りは、知らずに使う人も増えそうです。

このような問題が、具体的な数値や名前を挙げて、この作品で解説されています。また、よく海賊版の議論で取り上げられる、著作権、宣伝のための暗黙の了解のことも取り上げています。

この作品を読み、これからもこの海賊版問題は、姿形は多少変われど無くならないものなのだと痛感しました。まだインターネットが広まっておらず、これから増えるであろうアジア諸国のことにも触れられており、将来はもっと被害は増えるであろうと作者さんは提言しています。

この話を総括して最後に、作者さんの考えが書かれています。ぜひ読んで確かめて下さい。

 表紙イラスト  : 長鳥たま(ながとり・たま)

芸術の秋にふさわしい楽器を持った女性の絵! ヴァイオリン(違っていたらごめんなさい)を持っている女性を見ると、某ノイタミナのアニメを思い出しますが、あのキャラとはぜんぜん違うような大人びた感じのキャラです。

作者さんのインタビューによると、この絵を描くに当たって影響を受けた作品があるそうです。それは

東京喰種(トーキョー・グール)

!?

僕にはどこにその要素があるのかわからない……。ただ、あれはグロや凄惨さが目に付きがちですが、もっと重いテーマもあります。そちらなら納得がいく……かも。素人の浅知恵の披露はここまでとしましょう。表紙を見れば、難しいことなんか考えなくても綺麗なことはわかります。

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後半遅くなり申し訳ございませんでした! ごたごたしていましたが、ようやく完成しました。

作品の作者以外にも、この本を作るために仕事をしてくださった方々もいます。

以下は編集・デザイン担当の方々の名前(敬称略)です。

宮比のん〈群雛ロゴ〉

Yuki TANABE〈表紙デザイニング〉

竹元かつみ〈編集〉

晴海まどか〈編集〉

鷹野凌〈編集・制作・プロモーションほか〉

編集や校正、ロゴ、表紙のデザインを担当した方々、作品を書いた皆様、

そして何よりも鷹野凌さん。11月号制作お疲れ様でした。

来月号制作がもうすでに始まっていますが、頑張ってください。また機会があったら、月刊群雛に参加します。そのときはまたよろしくお願いしますm(_ _)m